お客様からお手紙を頂戴した。
朝礼の時に、皆の前でそれを読んだ。
お家の塗装が終わって、高橋の熱心だった仕事ぶりに感激されたと書かれていた。
学校のときから人に褒められることなどめったにない。
塗装職人になってからも、汚いイメージで人から嫌われこそすれ、好かれることもない。
昼、ペンキで汚れた服では食堂にも入りにくい。
冬でもコンビニ弁当を外で震えながら食べるような毎日。
だが、仕事には自信がある。
他に何にもとりえがない自分だけれど、塗装の腕だけは誰にも負けない自信がある。
塗装の仕事はやればやるほど奥が深い。
完璧にやろうとすればするほど、さらに限界を超えた極みがその先にある。
それに没頭していると、時間も忘れてしまう。
自分に妥協を許さず、上を目指す仕事に誇りを持っている。
そんな後ろ姿に、お施主さんが感激されたのだ。
思わず高橋の目にあふれ出てくるものがあった。
それを見て、皆もジーンとなった。
朝礼が終わって、高橋はその手紙を作業着の内ポケットに大事そうにしまいこんだ。
そして次の現場に向かっていった。
今日も、真っ正直に本物仕事に打ち込む高橋がいる。